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BIM業務は、モデルを作り始める前の「計画」が土台になります。本記事では、活用目的とユースケースの設定から、EIR・BEPの読み方と書き方、責任分担表、成果物の優先関係、LOD・LOI・LOIN、CDE環境、命名規則、データヘルスチェックまで、開始前後に決めておくべき事項を整理します。
BIM業務は「計画」から始まる
ある改修設計では、発注者は維持管理に使える情報整理を期待していましたが、設計者は合意形成と図面作成を目的と考え、設備属性の入力までは想定していませんでした。原因は、BEPに活用目的や成果物、確認方法が明記されていなかったことです。本記事は、開始前・開始時に決めておく計画事項を整理します。会議運営や課題処理、承認、変更対応の運用面は扱いません。
活用目的からユースケース・必要情報を決める
まず確認すべきは、使用ソフトではなく「BIMで何を達成するか」です。目的により必要なモデル・情報は変わります。キックオフ前には、活用目的、対象範囲、成果物、責任分担、共有環境、命名・版管理、品質確認を確認し、未決事項は「未定」として記録します。
活用目的が「なぜ使うか」を示すのに対し、ユースケースは「BIMで何を行うか」を示します。ユースケースごとに必要な形状・属性情報と確認方法を整理し、「使う情報」だけを決め、成功基準を一つ以上決めます。
国土交通省の「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第3版)」では、役割・責任分担等の共有の重要性が示され、ISO 19650との整合に配慮しつつEIR・BEP・CDE・責任分担表・詳細度等が整理されています。国内の業務慣行に即した運用が前提です。
EIRで発注者要求を読み取る
EIR(発注者情報要件)は、発注者側が求める情報要求を示す文書です。ガイドライン第3版では「発注者情報要件」とされ、BIMの運用目的、納品データの詳細度要求、データ共有環境の要求等を示すものとされます。実務では「BIM業務仕様」等の名称で扱われることもあります。活用目的、対象範囲、成果物、情報要求、受渡形式、CDE、権利・責任、費用等を記載しますが、使う仕組みがない情報まで求める文書にはしません。
要求はすべて実行可能とは限りません。誰が使うのか、どの段階で確定できるのか、モデルと図面のどちらを正とするのかを問いながら読みます。EIRが提示されない場合も、受注者側は要求を確認してBEPを作成し、詳細度・情報項目・成果物等を合意します。
BEPで実行計画を文書化する
BEP(BIM実行計画書)は、EIR等の要求に対しBIM業務をどう実行するかを示す計画書です。ガイドライン第3版では「BIM実行計画書」とされ、活用目的、実施事項、詳細度、情報共有・管理方法、業務体制、役割、システム要件等を定めた文書とされます。EIRが「何を求めるか」を示すのに対し、BEPは「どの体制・方法で行うか」を示します。
小規模案件でも簡易なBEPを作る価値があります。記載内容は、基本情報、活用目的、体制、成果物、モデル作成方針、情報要求、CDE、命名・版管理、品質確認、費用負担等で、担当者の業務・権限・責任は責任分担表で具体化します。契約前は基本方針を示し、契約後に担当者・提出時期等を詳細化します。BEPは更新する文書であり、条件が変われば変更理由と承認者を残します。
責任分担表とRACIで役割を明確にする
「誰がBIM担当か」だけでは不十分です。モデル作成者、確認者、統合モデル作成者、課題承認者、発注者説明者が異なる場合があります。役割は肩書きだけでは機能せず、何を作成・確認し、どこまで判断し、誰へ報告するかをBEPで記録します。一人が兼務する場合も、作成・確認・承認を同一視しません。
責任分担表では、意匠・構造・設備の各モデルや面積表等ごとに、基本設計から竣工引継ぎまで誰が何を行うかを整理します。RACI(R:Responsible=実作業、A:Accountable=最終責任、C:Consulted=相談・確認、I:Informed=共有)を使う方法もあり、小規模案件では重要な判断点に絞って使います。
成果物の優先関係とBIMデータの扱い
成果物はモデルだけでなく、IFC等の交換用モデル、PDF図面、面積表・建具表・仕上表、属性一覧、課題リストなどを組み合わせます。図面が正本となる案件では、モデルは調整・合意形成に活用しつつ、正本と参考情報、整合確認方法を明記します。
ガイドライン第3版では、BIMデータの共通名称として次が整理されています。
- 設計BIMデータ:基本設計・実施設計図書の作成に用いた設計段階のBIMデータ
- 確認申請BIMデータ:確認申請図書の作成やBIM図面審査に用いるBIMデータ
- 完成BIMデータ:施工段階の変更を反映し完成図の作成に用いたBIMデータ
- 完成施工BIMデータ:設計・施工段階の情報を統合する作業を施したBIMデータ
- 維持管理・運用BIMデータ:維持管理・運用段階で利用する目的に応じて構築するBIMデータ
一律の納品は意味せず、内容・詳細度・費用負担をEIR、BEP、契約等で定めます。完成施工BIMデータと維持管理・運用BIMデータは通常業務を越える場合があり、費用対効果を確認します。著作権等はプロジェクトごとに合意します。
LOD・LOI・LOINを目的に応じて設定する
LOD・LOI・LOINは、モデル作成後に決めるのではなく、活用目的やユースケースに応じて計画段階で設定します。
| 用語 | 教材での扱い |
|---|---|
| LOD(Level of Detail) | 形状情報の情報量を示す詳細度 |
| LOD(Level of Development) | 形状・属性情報を含め、どの範囲まで検討されたかを示す指標 |
| LOI | 属性情報の詳細度 |
| LOIN | 目的に対して必要な形状・情報・文書等の要求水準 |
LODは二つの異なる意味で使われるため、どちらの意味かをEIRまたはBEPで定義します。大切なのは数値ではなく、必要な情報を満たすことです。段階が進むにつれ必要情報を詳細化し、モデル要素ごとに詳細度を決めます。維持管理引継ぎが目的なら、対象設備に重点を置きます。
CDE・命名規則・アクセス権限を整える
CDE(共通データ環境)は、情報共有・交換を円滑にする約束事・手順を含む環境です。専用CDEでなくても、状態管理・版管理・権限を明確にできる仕組みを選びます。情報の状態は次の4段階に分けます。
| 情報状態 | 扱い |
|---|---|
| 作業中(Work In Progress) | 作成者または作業チーム内で使用 |
| 共有(Shared) | 他分野との調整・レビューに使用 |
| 公開(Published) | 正式な判断や成果物の根拠として使用 |
| アーカイブ(Archive) | 過去版、承認履歴、証跡として保存 |
この整理はISO 19650の4つの情報ステータスとの整合を図ったもので、実務上「承認済み」は「公開(Published)」として扱います。
命名規則は、ファイル名からプロジェクト・分野・階・内容・改訂・状態が分かるようにするものです。版管理は「最新版」より「承認状態」を重視し、作業中・共有・公開の版を分けます。アクセス権限は閲覧・編集・承認・管理等に分け、役職ではなく役割に合わせて設定します。
データヘルスチェックを計画に組み込む
品質確認は提出直前だけに行うものではありません。BEPでは、どの節目で、何を、誰が確認するかを計画します。データヘルスチェックでは、基準点・座標、命名規則、分類、属性、図面整合、干渉、モデル容量、成果物形式、承認状態を確認項目とします。
チェック結果は、実施、課題記録、担当者・期限の設定、修正、再確認という流れで是正につなげます。同じ不備が繰り返される場合は、ルールや教育を見直します。ファイル名・分類・干渉は自動チェックに、設計意図や優先順位は人の判断に向いており、両者を分けてBEPに明記します。
この章で押さえること
- 活用目的・対象範囲・成果物・責任分担・共有環境・命名版管理・品質確認をキックオフ前に確認し、未決事項は「未定」として記録する
- ユースケースごとに必要な形状・属性情報、確認方法、成功基準を設定し、「使う情報」だけを入力する
- EIRは発注者要求、BEPはその実行計画であり、同じ前提で業務を進める文書として作成・更新する
- 責任分担表・RACIで作成・確認・承認の責任を分けて記録する
- 図面・BIMモデルのどちらを正本とするかを明記し、成果品とするBIMデータの名称・詳細度・費用負担を合意する
- LOD・LOI・LOINは、目的とユースケースに応じて段階・モデル要素ごとに計画する
- CDEの情報状態、命名規則、版管理、アクセス権限、品質確認の体制をBEPに明記する
『建築BIMマネジメントの実践(実務編)』第4章
